日本市場の開拓:マーケットセグメンテーションを用いて隠された市場機会を探る


日本は世界第三位の経済大国でありながら、その全盛期は過ぎ去ったと言われることがある。しかし、より詳細な分析やセグメンテーションを行うと、日本市場には巨大なビジネスチャンスが潜んでいることがわかる。こうした日本市場の概観を眺めていると、10年ほど前に盛んに議論された「ピークオイル論」が思い起こされる。

ピークオイル論の失墜と日本市場

ピークオイル論は決して主流な理論ではなかったが、その支持者には、高い教育を受け、経験豊富な地質学者や技術者が名を連ねていた。ピークオイル理論は、ある時点を超えると世界の原油生産量が減少に転ずるという説を前提にした理論である。この時点を超えると、新しい油田の開発が既存油田の枯渇に追いつかなくなると言われている。

以降は、原油生産量は緩やかに、だが着実に減少していき、最終的には炭素に頼りきりの世界経済を容赦なく圧迫していくことが予想されている。ピークオイル論の初期の支持者として最も名高いマリオン・キング・ハバート氏は、米国の原油生産量の低下をベル状曲線で驚くほど正確に表した。他の主要生産者も同じようなパターンを辿ると考えられていた。さらには、原油を使い果たす前に、避けようのない経済的・社会的圧力から、グローバル社会の崩壊を予期する学者もいた。

日本の人口は減少しているが、日本市場はそうではない

しかし現実には、(気候変動問題にとっては喜ばしいことではないが)米国の原油生産量は、ここ10年間減少傾向にない。実際には真逆のことが起きている。米国の原油生産量は過去最高を記録しており、エネルギーの自給が可能になりつつある。原油生産量の増加は、同じ油田から20年前と同じ手法で採油し続けていたのでは達成できなかった。新たな掘削・採取技術が開発されたことで、以前は不可能と思われていた方法で原油を採取することが可能になったのである。

日本市場は最盛期を越えたという意見を聞くたびに、もはや神話のように語られるこのピークオイル論を思い出す。

確かに、在来型の原油埋蔵量がそうであるように、日本の人口は減少している。原油に関して言えば、実際の豊富な埋蔵量は、採取する技術がなければ発掘されることはなかった。では、日本の人口減少は、経済的価値を発掘する力を低下させてしまうのではないか。従来の抽出技術を用いるように、日本市場における商機の発掘にも従来と同じ手法を使い続けていくのだとしたら、その答えはイエスだ。ただ、それに甘んじる必要はない。

洗練されたセグメンテーション手法を用いれば、日本市場における象徴的かつ重要な油田を発掘することは十分に可能であることをここで証明したい。

日本市場のうまみを最大限抽出するセグメンテーション

原油抽出技術が進歩してきたように、マーケティングアプローチにも進歩が必要だ。大きな噴油を求めて、同じところを闇雲に掘り続けることはできない。石油産業では、水平掘削という技術を導入することで、これまで届かなかった油層に到達することができるようになった。フラッキングは物議を醸している技術ではあるものの、現実社会に大きな革新をもたらしたことは確かだ。

日本市場は一枚岩であるということを忘れる

日本市場においても同様の変革をもたらすためには、まず日本市場は一枚岩であるということを忘れることが必要だ。日本市場をひとつのものとして捉えずに、いくつもの日本市場があると理解した方がいいのかもしれない。2019年の日本市場への参入を成功させたいのであれば、同じ世代や社会経済集団の中にも、さまざまなニーズがあることを理解しておくことが重要だ。多様化するニーズはすぐに顕在化するわけでもないし、新しいニーズも次々と生まれている。

日本市場で長年に渡って実績を積んでいたとしても、主要顧客だけでなく、将来的に顧客となり得る潜在層に対する考え方も見直しておくことも同様に価値があると言えるだろう。潜在顧客を、それぞれの特徴に基づいてグループやセグメントに分けて市場を捉えるマーケットセグメンテーションという手法を用いることで、成熟しきった複雑な飽和市場においても最適な戦略を立てることが可能になる。

日本市場におけるマーケットセグメンテーションの方法

日本市場に関わらず、マーケットセグメンテーションを行ううえでまず思い返しておきたいのが、私たちは一人ひとり異なるということである。多かれ少なかれ、私たちのニーズはそれぞれ違う。ビジネスを行う時には、消費者全般を意識するのではなく、一個人を意識する必要がある。Amazonのように野心的な企業のいくつかは、顧客一人ひとりを一つのセグメントとして捉えることを目標に掲げている。長い道のりではあるが、One to Oneマーケティングはセグメンテーション思考の理想形であると言える。

市場調査の世界では、マーケティング戦略の提案を行う際に、代表的な消費者に対してアンケート調査を実施することがある。アンケート調査では、ある特定の状況や分野における対象者のニーズについて、率直な意見聴取を行う。この時にセグメンテーションを行わなければ、得られた結果を集約した形で分析し、平均的な消費者の平均的なニーズを測定することになる。マスマーケティングを意図しており、すべての消費者に対して一つの商品を同じ方法で売り込みたいのであれば、こうした調査から得られたインサイトは非常に有用なものになるだろう。しかし、このマーケティング手法が最適だった時代は終わりに近づいている。

マーケットセグメンテーション入門

市場をセグメント化する方法は多種多様であるが、年齢や性別、居住地など、簡単に観測できる特徴をベースにすることが多い。地理的・人口統計学的セグメンテーションと言われるこの手法は、比較的取り入れやすい方法である。自社の顧客についての膨大なデータベースを所有している企業であれば、顧客の行動と人口統計学的な特徴を組み合わせたセグメンテーションも可能である。

「市場調査の専門家の役割は、そのブランドのマーケティング戦略で具体的に対応できる重要なニーズを見つけることにある」

しかし、専門家のように市場を掘り下げたいのであれば、消費者の考え方やライフスタイル、購買行動、価値観など、簡単には観測できない特徴を明らかにしていく必要がある。漠然とした内的要因が最終的なニーズの創出につながっているためだ。これらのニーズやその根底にあるものを理解することが、ニーズを満たすためのアイデアを作り出すうえでの第一歩となる。市場調査の専門家の役割は、そのブランドのマーケティング戦略で具体的に対応できる重要なニーズを見つけることにあると言える。

マーケットセグメンテーション応用

消費者ニーズを調査するための最適な方法は、ニーズの幅を理解し、概略図を設計することである。そのためには消費者の自宅や仕事場、レジャー環境や消費活動を行う場面において、直接関わりを持つ時間が非常に重要になる。生の消費者とリアルタイムで接点を持つために、定性調査手法の一つで、エスノグラフィと呼ばれる観察法とインタビューを組み合わせた調査手法が使用される。ニーズの違いを観察し掘り下げることで、仮説に基づいた多次元的なニーズマップを作成することが可能になる。実際の「現場」で行うことは必須ではなく、会場調査形式で行うことも可能だが、筆者個人としては、実状に近い環境の方が新しい学びを得やすいと考える。

ビジネスケースを作成する段階に入ると、セグメントや商機を定量的に分析することが必要になる。この時に、消費者アンケート調査が役立つのである。

定性調査が先、定量調査は後

クライアントの中には、セグメンテーションを目的としたアンケート調査をすぐに行いたがるケースもあるが、通常は前述の探索型リサーチを先に行うことを推奨している。アンケート方式を採用した定量的セグメンテーションを行う際には、マーケターの視点ではなく、消費者の視点から得られたインサイトや言葉を使用することが理想的だ。そのため、時間はかかるものの、定量調査を行う前には対面式の定性調査を行うようアドバイスすることが多い。知らないことを知らないと言えるのが本物の知者である。

定量調査を実施しデータを集めた後は、さまざまなモデリング手法を使って、標本の中からユニークかつ共通(かつ興味深い)のニーズを有するグループを抽出する。こうして得られたセグメントは、ニーズや人口統計、心理学的属性に基づいて分けられているため、多次元的であることが多い。

以前は全体の中に埋もれていた小規模の消費者グループを特定し、その立場になって物事を別の側面から眺めることで、イノベーションや差別化の火種を起こすことができる。重要なのは、必ずしも市場全体に革新をもたらす必要はないということである。インスピレーションに従って、興味深く価値あるグループに対して革新を起こしていけばいいのだ。

マーケットセグメンテーションは簡単ではない

魅力的な概念ではあるものの、セグメンテーションを実行に移すのは難しく、また複雑でもある。マーケターが説得力のある機会を特定できたとしても、その上司や経営幹部が、理論上にしか存在しないグループに対してリソースを費やすことに抵抗を示すケースを何度も見てきた。

たとえ財務上の意思決定者がセグメントを現実のものとして捉え、信頼を置いていたとしても、どのセグメントに注力するべきか、どのセグメントを度外視するべきかについて合意を得るのは簡単なことではない。実際には、マーケティングリソースには常に限りがあり、最も引き付けやすいセグメントに注力することがベストだとわかっていても、特に大企業であればあるほど、より広い市場機会に背を向けることは非常に難しい。

しかし一方で、勇敢なことに、このセグメンテーション思考に基づいて全事業を展開している企業があることも確かだ。勇敢なスタートアップ企業や冒険心溢れる新規市場参入者にとっては、ある意味最適な考え方なのかもしれない。

一つのセグメントに注力したWeWorkの取り組み

そのビジネスモデルやSoftBankによる最近の強固なサポート体制がさまざまな議論を呼んではいるものの、WeWorkはセグメンテーション思考から生まれたビジネスの好例と言えるだろう。

レンタルオフィス市場は新規性があるわけでもなく、既存プレイヤーによる供給力も十分だったが、WeWorkは新たなニーズを満たすために市場参入を果たした。WeWorkのターゲット層は、RegusやServcorpなどの競合他社と同様に、常用のオフィス空間や厳しい賃借契約を必要としない個人や企業である。WeWorkの顧客が他社顧客と異なる点は、社交的で前向きな考え方を持っており、同じスペースを利用している他のテナントと関わることで、ビジネスに新しい価値を生み出す意志があるということだ。

そうした顧客にとって、WeWorkは単なるシェアオフィスではなく、コミュニティであり、創造性を増加させる場所にもなっている。WeWorkの根幹にあるビジネスモデルは真新しいものではなく、過大評価されている部分も間違いなくあるが、巨大な市場の中で明確な心理的なニーズを見つけ出し、それに対応することで、ブランドの価値を生み出すことができたのである。

複数のセグメントへの働きかけを行った大規模ツーリズム産業の好例

前述の通り、大規模ビジネスにとっては、日本市場においてセグメンテーションを行うことには、さらなる難しさを伴う。その中でも、セグメンテーションの成功例として挙げられる二つの企業、東京ディズニーランドとユニバーサル・スタジオ・ジャパンの取り組みを取り上げたい。

これらのビジネスは、スリルを求める人、夢を見る人、休日を楽しむ人、現実逃避をしたい人など、さまざまなニーズに対して、特別な体験とエンターテインメントを提供している。幼児連れの若い夫婦や16歳の少年グループ、リタイアした老夫婦など、さまざまなセグメントが求めていることに対して、プロダクトミックスやブランドコミュニケーションを通じた適切なアプローチを取ってきたことが、事業の成功につながっている。それと同時に、明確かつ一貫した魅力的なブランドポジショニングを保持し続けることができたというのも成功要因の一つだ。

日本におけるセグメンテーション方法の検討が必要な統合型リゾートビジネス

計画通りに進めば2025年頃の開業を目指している統合型リゾートについても、大規模テーマパーク事業が抱えているものと同様の課題に直面することだろう。

この業界に精通しているプレイヤーであれば皆日本市場への参入を狙うだろう。なぜならば、ラスベガスやマカオのような統合型リゾートは、ギャンブルやカジノを楽しむだけの場所ではなく、ギャンブラーから家族連れ、買い物客、パーティーピープルまで、年齢やライフスタイルを問わず、さまざまなセグメントに対して価値を提供していることを理解しているからである。

セグメンテーションの成功例は数多くある。ここで取り上げたもの以外にも好例があれば、ぜひコメント欄にて感想を聞かせていただきたい。海外プレイヤーが日本市場に参入する際には、自国市場で抱えていた課題とはまったく異なる視点からのセグメンテーション手法が必要になるということを強調しておきたい。縮小傾向にあるものの、豊富な機会が眠っている市場におけるセグメンテーション手法が必要になるということだ。