変化を学ぶ:日本市場への参入を成功に導く3つのステップ

日本市場への参入を果たした欧米ブランドが時には成功し、時には失敗するのはなぜだろうか。StarbucksやDisneyが日本で広く成功している一方で、SephoraやVodaphoneは他国市場では大きな成功を収めているものの、日本市場では無惨にも敗北を喫している。このような大きな分かれ道はいつ、どのようにして起こるのか。この記事では、日本市場への参入を成功に導く3つの黄金ルールを紹介したい。

日本市場への参入:市場への適応の失敗が敗北を招く

「その失敗は運命のせいではなく、我々自身のせいだ」。シェイクスピアの言うことは、まったくもってその通りである。失敗する欧米ブランドの多くは、始めからブランド自身に原因がある。日本市場で成功を収めるために必要なマーケティング手法の変化を認識することができなかったためだ。

日本の消費者行動の根底には、自国とは異なるさまざまな価値観やニーズ、優先事項が存在する。つまり、消費者へのアプローチ方法やビジネスのやり方に適切な変更を加える必要があるということだ。

筆者は、20年以上に渡り日本市場での成功を目指すブランドと協働してきた経験から、消費者戦略には3つの重要なステージがあり、いずれもショートカットすることができないということを学んだ。3つのステージはそれぞれ密接に関わり合っており、すべてに注力していくことが望ましい。

日本市場への参入ルール1:信頼こそが重要だ

世界で最も洗練され、要求水準が高いと言われている日本の消費者の信頼を勝ち取るためには、論理面と感情面の両方から、そのブランドを所有する価値があることを説得する必要がある。

欧州や米国の消費者の多くは、自身が購入しているチーズやシャンプーのメーカーがP&Gであろうが、Unileverであろうが、Mondelezであろうが、まったく気にかけていない。こうした無知は日本ではまず起こらない。お金を使う場面になると、日本人は保守的でリスク回避的な姿勢を取る傾向にあることをまず理解しておかなければならない。さらに言えば、ニーズを満たすことや問題を解決することよりも、自分自身や他人に危害を及ぼさないことの方がはるかに重要なのである。

日本の消費者は商品購入前に信頼の証を求めている

そのため、日本の消費者は常に「石橋を叩いて渡る」傾向にあり、商品を購入する前には、そのブランドが信頼に値するものなのかどうかを非常に重要視している。日本市場への参入を検討しているならば、まずは信頼を獲得しなければ孤立無援の状態になってしまう。信頼を獲得するためには多種多様の方法があるが、ここでは挙げきれないため、別の記事で詳しく解説することにする。

信頼を構築するための一つの方法として、有名人をブランドの広告塔やキャンペーンに起用することがある。これは、日本市場において長年に渡り議論を呼んでいる重要なテーマであり、有名人の起用は、使い古された手っ取り早い解決策であると感じているクライアントも多い。

有名人のお墨付きに弱い日本人

広告塔の選定条件については自国市場とはかけ離れているかもしれないが、ブランドの顔を正しく選択することは重要な機会の創出につながるだろう。他の市場と同様に、日本でも間違いなく、消費者を動かす鍵は「感情」にある。有名人と商品またはブランドを紐づけることで、ターゲット層の間でポジティブな感情を想起させることが可能になる。そのため、キム・カーダシアンが日本向け商品の広告塔になるのには、かなりの長い時間が必要になるだろう。

有名人のことは置いておくとして、上述のDisneyの事例、特に東京ディズニーランドの成功例について見ていきたい。

1983年に東京ディズニーランドが開園した当初は、消費者の恐怖感や不安を払拭するために、かなりの努力を要したと言われている。現在では、東京ディズニーランドは、国内で最も人気の高いテーマパークとして知られている。消費者が懐疑的な考えを持っている市場においては、特別な手段を用いて消費者を安心させることが、信頼関係構築の鍵を握る。

Disneyの取り組み方

日本の消費者がカルチャーショックに対する恐れを抱かないよう、Disneyはさまざまな工夫や配慮を提供してきた。まず、園内を常に格段にきれいな状態にしておくために、清掃に関して米国のものよりも厳しいチェック体制や規則を採用した。アトラクションの操縦者は、日本の公共交通機関の運転手が使用しているような白い手袋を着用することを義務付けられている。

Disneyは日本の消費者が望むことを徹底調査し、ギフトラッピングサービスが好まれること、テイクアウトよりも着席形式のレストランが好まれること、家族連れがお弁当を食べるためのスペースとして、パークの外周に小さなピクニックエリアを設ける必要があることを突き止めた。クルーの接客態度も重点要素であると捉えており、個人的な意見だが、米国よりも日本の方が接客態度は遥かに優れていると感じる。

文化的な面で細かいが重要な変化を加えたことで、東京ディズニーランドは、国内どこを探しても他には存在しない特別な場所でありながらも(訪れる価値がある場所として認識してもらうことが第一である)、日本人が求める水準を満たしている場所として消費者に認識してもらえるようになったのだ。

ローカル企業とのパートナーシップ

未知の分野を開拓するためには、ローカル企業とのパートナーシップを組むことが成功への道につながることがある。ブランドオーナーであるDisneyは、東京ディズニーランドの運営に開園当初から携わっている日本企業であるオリエンタルランドと、長きに渡って良好なパートナーシップを築き上げてきた。

ただし、パートナーシップがすべての解決策ではないということは覚えておいてほしい。失敗に終わったパートナーシップも数多くあり、必ずしも必要なものではない。とは言え一般的には、ブランドの信頼を築く方法を学ぶ相手として、評判の良いローカル企業に勝るものはないというのは事実だ。

日本市場への参入ルール2:違いを強みに変える

差別化という点においては、日本市場に参入する海外ブランドが頭を悩ます必要はないだろう。異なるということはコントロールすることが難しく、日本人がいかに違いに敏感かという事実は低く見積もられることが多い。

その反面、こうした違いは実際の市場では長所になり得る。そのためには、まずは実際の違いと認識している違いを理解し、どこに付加価値を与えられるかを把握しておく必要がある。それはブランドが保有するユニークかつ風変わりなイメージかもしれないし、原産国や材料の違い、革新的な機能、あるいはコスト面かもしれない。違いを強みに変える方法を学び、違いを薄めることなく、ブランドに面白みやステータスを加えるものとして大切にしていくことが重要だ。

日本市場では伝統が重視される

信頼関係を構築する方法がさまざまであるように、こうした違いを活用する方法も多種多様である。伝統を活用するのもアイデアの一つだ。日本では、伝統がブランドイメージに与えるポジティブな影響は大きい。儒教に基づく過去への畏敬の念から、伝統への尊重が日本人の共感を呼ぶのかもしれない。いずれにせよ、日本の消費者は、自身が購入するブランドが確立されたもので、社会的に認められており、人気があることを好む傾向にある。伝統とは、社会的に構築されたものであり、ある程度操作することが可能だ。つまり、何百年もの歴史が必要なわけではない。商品やブランドの名前や店舗の場所、包装形態、物語風のコマーシャルなどを通して、伝統を示唆することは十分に可能だ。

たとえばKFCは、伝統を利用し、日本市場向けの広告に違いを生み出すことで成功を収めることができたブランドの一つだ。カーネル・サンダースの姿は、革新を求めるのと同じくらい伝統を重んじる消費者に対して強力な存在感を示している一方で、KFCは日本ではクリスマスと同義語でもある。西洋のお祭りであるクリスマスの概念と同じく、「外国のもの」であるという認識を活用し、作り上げられた伝統を消費者に信じ込ませることができたのだ。コマーシャルを通して、KFCはクリスマスに家族で食べるものという不変の認識を作り上げることに成功した(http://www.youtube.com/watch?v=mM9IeRXxdTA)。ただし、この認識は日本特有のものである。

日本市場への参入ルール3:市場におけるアジェンダを再設定する

日本は非常に保守的で、多くの点で変化に抵抗を示す傾向にあるが、日本市場で大きな成功を収める西洋ブランドは、市場におけるアジェンダを再設定することで、独自のやり方で競合他社と戦うことができている。アジェンダを再設定すると口で言うのは簡単だが、それを実行するのは難しい。

iPhoneがフィーチャー・フォンを時代遅れのテクノロジーとして位置づけることで、携帯電話市場の再評価につながった例を考えてみたい。簡潔にまとめると、既存の選択肢を別の角度から見る視点を消費者に与え、より良い選択肢があることを提示することができた好例と言える。市場におけるアジェンダの再設定とは、違いを意味のある違いに変えることを意味する。

Starbucksの日本市場におけるサクセス・ストーリー

市場におけるアジェンダの再設定に成功した好例の一つがStarbucksの取り組みである。1996年に日本進出を果たしたシアトル発のコーヒーブランドは、先日東京に国内最大規模の店舗をオープンし、その勢いはとどまることを知らない。お洒落な中目黒に開店したStarbucks Reserve Roasteryは、日本人のコーヒーに対する考え方を変化させてきた海外ブランドの献身を象徴するものでもある。

Starbucksが日本市場に参入した当初は、ドトールなどの国内大企業と競合しており、コーヒー店とは、同じようなスーツを着たサラリーマンが煙草の煙をくゆらせながら一杯の安いコーヒーを急いで飲むための場所だった。Starbucksは空間や時間、コーヒーという商品に新しい視点を提供することで、新しいコーヒー体験を作り出すことに成功した。従来のコーヒー文化に反し、快適なソファを備えた広々としたスタイリッシュな店舗空間と禁煙体制を整え、トールサイズのラテなど大きなサイズを用意することで(小さいサイズも販売している)、顧客に長居をしてもらえるような環境を作り出した。また、抹茶フラペチーノや抹茶ラテ、季節限定フレーバーなど、日本市場向けの商品開発にも工夫を凝らしている。

日本市場でのゲームチェンジャーになり損ねると、一時的なブームで終わる

市場におけるアジェンダの再設定に失敗すると、新たな海外ブランドとして目新しさによる一時的なハネムーン期はあっても、結局は有能な競合他社や国内で地位を確立している同業者に負けてしまう可能性がある。イノベーションを求め、変化が激しい文化においては、競合にはない革新的かつ比類のない新しさや違いを提供できない限りは、持続的な成功は望めない。

現状維持で満足している競合環境につけこむことは十分に可能であると筆者は考えるが、消費者理解や投入可能なリソース量という点においては、ローカル企業には敵わないということを覚えておく必要がある。市場におけるアジェンダの再設定とは、競合の強みの中に弱みを見つけるということである。

日本市場への参入成功に向けて手探りで進む

簡潔にまとめると、日本市場で成功を収めるためには、まずは消費者の信頼を獲得し、「違い」をベースに、ブランドに面白みやステータスを加えられるような新しい視点を提供し、従来の選択肢を再検討させるのに十分な「意味のある違い」に変えていくことが必要になる。

難しい注文であるうえ、市場参入を狙っている企業が、参入前に市場や競合企業、消費者について膨大な知識を築き上げる必要があることを軽く見積もってしまうのも無理はない。これには数年の歳月が必要になることもある。「数ヶ月程度」では済まないのは確かだ。

最終的には、獲得した知識に加えて、日本市場を手探りで進む力が成功の後押しになる。日本は感情に動かされている文化であり、本記事で取り上げた3つのルールにおいても同様のことが言える。

海外ブランドが日本で成功を収めるためには、持ち前の特性と敏感さが必要になる。ただ、それ以上に、リアルな消費者に触れる機会を設け、十分な傾聴を行うことが重要だ。筆者がエスノグラフィなどの調査手法を好むのはそのためだ。こうした手法は市場調査の初期段階で使用され、構造化されていないため、新しい情報の獲得や消費者への共感を生むことができる。それによって、単なる市場データを消費者あるいは人間理解へとつなげていくことができるのだ。