日本における市場調査を適切に進めるために:初心者のための成功のためのヒント

最近、筆者は同僚であるデビー・ハワードと共に、Happy Market Research Podcast(市場調査業界に興味のある方におすすめのポッドキャスト)のジャミン・ブラジル氏のインタビューを受けた。様々なトピックが話題に上がったが、とりわけ議論が集中したのが、国際的な市場調査を実施する際に起こり得る間違いをどのように回避するかーー言い換えれば、プロジェクトから最大限の成果を引き出すためにはどうするべきかについてだった。この点に関して得られたインサイトを共有し、掘り下げていく必要があると感じた。

デビーと筆者は、長年に渡り、日本市場への参入を目指している多くの外国企業をサポートしてきた。経営者をはじめ、海外事業部、マーケティング部、製品開発部、UXデザイン部、市場調査部など、幅広い部署の方々と協働する機会を得ることができた。クライアントの多くは自国の市場では成功を収めているものの、アジア市場、特に日本市場においては低い経験値からのスタートとなる場合がほとんどだ。

こうした知識格差は、ユニークな日本の消費者行動やマーケティング戦略、コミュニケーション方法の違い、あるいは日本独特の市場調査手法によるものであることが大きい。

一つ確かなことは、この知識格差を埋めることは、長期的な時間やコストの削減につながるということである。以下に、プロジェクトを成功へ導くいくつかのヒントを紹介する。 

業界に詳しい人脈を頼る

プロジェクトに最適な調査パートナーを選ぶ際に第三者のインフォーマルな意見を求めることで、見積書を見比べるよりも遥かに有益な情報を得られる。調査会社によって使用する調査手法は様々であり、それぞれが得意とする分野も異なる。クライアントが考えていることや、プロジェクトの適切な進め方を理解する力も調査会社によって千差万別である。国際的なネットワークを持っていない場合は、LinkedInを介して人脈を辿っていくのがおすすめだ。ほんの数名の人脈を辿れば、最良のパートナー選択についての貴重なアドバイスをくれる専門家に行き着くはずだ。

調査手法の異なる使われ方

日本においても標準的な調査手法はすべて導入されているが、実際に対象者を目前にした時には、その使われ方が異なる場合がある(または調査手法のメリットやデメリットが他国とは異なる場合がある)。たとえば、電話での市場調査インタビューの実施は他国では極めて普通のことだが、日本でこの手法が用いられることは滅多にない。これは、日本の文化的に、電話にもしきたりやマナーが求められることから、対象者との信頼関係を築き上げることが難しいことに起因する。さらに、対象者にとっても、会ったことがない人に電話越しで情報を共有することに抵抗感を覚える人が多いということも、電話インタビューへの受容性が低い理由の一つとして考えられる。

新型コロナウイルス感染症の余波で、Zoomによるオンラインインタビューが台頭したことで、対面インタビューによる信頼関係構築の容易さと、電話インタビューの効率性の両方を兼ね備えた調査手法を選択することができるようになった。当社も、この新しいテクノロジーの台頭を大歓迎しているが、一方でインタビューの種類によっては、対面インタビューほどの深く優れたインサイトを得ることができないという懸念も残る。

調査手法を決定する前に疑問点を解消する

調査手法について疑問がある場合は、調査パートナーに積極的に質問や相談を持ちかけるべきである。リクルートメント方法やインタビューの長さ、謝礼などについては、彼らのアドバイスに従うことが最良であることが多い。ただ、他国とは異なるアプローチを用いることに対して十分な根拠が示されていないと強く感じた場合には、説明責任を求めたほうがいい。日本で多用される調査手法の中には、対象者への配慮というよりは、調査会社にとっての快適さや慣習に基づいて提案されるものもある。長年、海外クライアントはもちろんのこと、外国人リサーチャーが対象者の自宅でインタビューを行うと、対象者に居心地の悪い思いをさせてしまい、インタビューの質が損なわれる可能性があると言われてきた。しかし、礼儀正しい振る舞いを心掛ければ、必ずしもそうはならないことがわかっている。

それでもやはり、特にデジタルツールを活用したインタビューにおいては、対象者にとって快適かつ参加しやすい環境を整えておくことが必要不可欠だ。日本は先進的な市場ではあるが、平均的日本人が、インタビューに必要なデバイスやプラットフォームを準備できるとは限らない。ましてや、「平均的日本人」の年齢層は他国よりも高いことがほとんどだ。そのため、当社では、コロナ禍になってからは、インタビューに必要なソフトウェアを事前にダウンロードしたデバイスを対象者宅に送り、箱から出せばすぐに使える状態にしておくという手法を取っていた。

もう一つ念頭に置いておきたいのが、どんなに簡単そうに思えるタスクでも、対象者が協力してくれるとは限らないということだ。たとえば、医師などの多忙な専門職に、新しいインタビュープラットフォームのダウンロードをお願いすることは得策とは言えない。「お客様は神様だ」という日本の古い格言は、市場調査の世界においては「対象者は神様だ」という通説に発展している。リクルートメントやインタビューも、対象者を敬い、丁重に扱いながら行う必要がある。さもなければ協力を得られないばかりか、調査終了後のクレーム問題に発展する可能性もある。 

調査結果の分析には日本語ネイティブのパートナーが必要

日本人は、文化人類学者が言うところのハイコンテクスト文化の中で生きている。つまり、コミュニケーションの大半は非言語で行われており、あえて言葉にしないことでコミュニケーションを取っているとも言える。これを解釈するのは、外国人にとっては非常に難しいものがある。筆者は日本に25年住んでおり、数多くの日本人と共に働いてきたが、それでも彼らが本当に伝えたいこと(または隠したいこと)を理解するのに苦労している。そのため、実際に見聞きしたことへの正確な理解を得るためには、日本語ネイティブのプロジェクトパートナーと良好な関係を築くことが重要だ。同じ事象を観察していても、解釈次第でまったく異なる結論に行き着くこともある。たとえ相手が若く経験の浅いスタッフであろうが、対話を重ねれば重ねるほど、バランスの取れた別の視点からの解釈が得られることになる。調査から得られた結果や含意の解釈について必ずしも合意が必要なわけではないが、日本人同士だけが同じ解釈に至ることは決して珍しいことではない。日本語ネイティブのパートナーを選べば、同じ方向性を持って議論を進めることが可能になる。

街を散策する時間を確保する

コロナ禍ではあるが、日本を訪れる機会があれば、実際に街を散策することをおすすめする。空気感や雰囲気を肌で体験することで、数え切れないほどの疑問やアイデアが思い浮かぶだろう。数年前、米国の大手企業の経営陣を連れて市場探索を行う機会があった。まったくの日本初心者を案内することを想定していたが、彼らは事前に街を散策し、すでにたくさんのアイデアを得ていたのだ。これによってクライアントは異文化に対する共感力が得られたほか、市場探索を通して観察眼や質問の質を高めることができた。台本のない想定外の出来事からこそ学べることは数多くあると筆者は信じている。 

安易に定量調査に頼らない

日本市場での可能性を探るために、探索型の定性調査をせずにアンケート調査のみを検討しているクライアントに対して、筆者は度々忠告をしている。アンケート調査を通して消費者の現在の認識や行動を把握することは問題ないが、消費者の本質的なニーズは、クライアントの自国で得られた結果とは異なることが多く、深く理解するにはある程度の時間がかかるものだ。ある大手清掃企業を訪れ、製品の効果が高すぎるという調査結果を伝えた時の経営陣の信じられないという表情を今でも覚えている。その後、主婦層に対する自宅でのエスノグラフィ調査を実施したおかげで、掃除習慣や清掃プロセスに付随する感情を理解することができ、効果が高すぎる掃除製品の危険性を認識することができた。

消費者の文化的背景を考慮しないことには、日本市場における製品やサービスの適合性を理解することはできない。多くの場合、適切な質問内容や質問の仕方、日本の消費者が理解しやすい形でコンセプトを伝える方法を知らないことが問題であることがほとんどだ。何が重要で、何が重要でないかを知ることは、調査を成功に導くコンセプトの考案に大きな違いを生み出す。アンケート調査の設計や実施を完璧にやり遂げたとしても、対象者のサンプリングや質問内容が消費者の実状を正確に反映していないものだとしたら、調査結果は不完全かつ誤解を招くものになりかねない。 

結局のところ、調査設計や調査方法については、同僚や調査パートナーと議論する機会をどれだけ持てるかという点に尽きる。プロジェクトの開始後は、調査結果の理解や解釈に関してローカルチームの力を借りることが鍵になる。自国市場のことはすべてお見通しかもしれないが、異なる見解に耳を傾け、前向きに受け入れることは、価値のある有意義な経験につながるはずだ。この記事で取り上げたヒントを念頭に置いておけば、日本での市場調査が成功に終わることは間違いない。