市場調査を活用して顧客とのつながりを再構築する
日本における新型コロナウイルス感染症流行のピークは過ぎ去ったと、慎重ながらも楽観視する見方が広まりつつある。小売店は営業を再開し、飲食店にも人が集まるようになり、オフィス通勤も増え始め、政府による「Go To トラベル」キャンペーンで国内旅行も回復の兆しを見せ始めている。これらは、わたしたちの日常生活が普通に戻り始めているという非常に有望な兆候でもある。ただし、これは、恐ろしく決まり文句のように繰り返される「ニューノーマル」に変化したということに過ぎない。
ブランドの中には、コロナ禍において顧客との接点を持つことを避けてきたブランドもある。温室のような環境でインサイトを得られたとしても、それはせいぜい一時的なもので、最悪の場合、誤解を生みかねないと判断したためである。こうした状況下で得られたインサイトには「使用期限」があることを覚えておく必要があるが、顧客との接点を持ち続けたブランドは、顧客に対してより共感的なスタンスを維持することができたほか、高い状況認識能力を獲得することができた。
古い格言を言い換えるなら、「木を植える最も良い時期は、20年前である。次にいい時期は今である」ということだ。
実際に、コロナ禍の初期段階から顧客との接点を持ち続けていたブランドは、現在明らかに優位な立ち位置にある。しかし、顧客とのつながりを再構築するのに遅すぎるということはない。
つながりの再構築に向けて、ここ半年間で当社が支援してきたクライアントの取り組み内容を、3つの分野に分けて紹介したい。
現在の状況への共感を示す
消費者の現在の生活状況について理解を示すためには、非常に献身的な取り組みが必要になる。このような種類のアプローチは、クライアントが日本市場に初参入する時や、市場において大きな改革を検討している時などに採用されることが多い。これまで馴染みのあったビジネス環境が大きく様変わりしたことで、消費者と直接関わり合いを持ち、彼らがどのような生活を送り、どのような購買行動を取り、どのように働いているのかを理解するための時間を確保する必要性が高まってきている。
これらの目的を念頭において消費者との関わりを持つには、体験型・エスノグラフィックインタビューが最適である。通常は対面で実施されることが多いが、ソーシャルディスタンシングの要請により、デジタルテクノロジーを活用することで日本の消費者の今を知る機会が得られるようになった。最近のプロジェクトでも、パートナー両方が仕事や学業の混乱状況への対応に追われることで、家の中がどれほど煩雑に散らかってしまうのかという現状を目の当たりにしたばかりだ。これによって、物理的空間の確保という現実的な問題だけでなく、心理的空間の重要性も明らかにすることができた。
隠されたニーズを明らかにする
コロナ禍の影響は続き、新しいニーズを作り出している。多くのブランドはデジタル化への対応力を強化することに焦点を当て始め、これによってデジタルカスタマージャーニーをシームレスかつ便利で魅力的なものにすることが喫緊の課題となった。こうしたニーズが理解され、満たされていることを確認するために、PCやスマートフォンを使った在宅でのユーザーエクスペリエンスの測定を可能にする、遠隔でのデジタルユーザビリティテストが実施されることがある。対象者の自宅で実験環境を再現するためには創造性が必要だが、すぐに応用可能な消費者の生の声を拾い集めることができるという利点がある。
インサイトを必要としているのはデジタル分野だけではない。飲食やレジャー、エンターテインメントなど、感情面でのニーズを満たす分野においても、消費者の声を聞きたいという企業は多い。当社では、飲食やエンターテインメント、清掃・掃除、育児、介護など、幅広い分野における消費者ニーズを理解するために、一対一またはフォーカスグループでの遠隔インタビューを実施してきた。インタビューを通して得られたインサイトは、来春の新製品や新しい広告キャンペーンの企画や開発に役立てられている。どのような状況下であれ、生活は続く。2021年に向けて、適切な商品と広告キャンペーンの投入が必要不可欠だ。
消費者動向を追跡する
コロナ禍で重要視されてきた3つ目の市場調査アプローチが、消費者心理や動向を探る消費者意識調査である。これは、定量アンケート調査の形式で行われ、一回限りの実施であることが多いが、比較基準として継続的に記録を行った時、あるいは標尺として使用された場合にその真価を発揮する。通常時は、ブランドの認知度や顧客の行動、購入意欲、顧客満足度などを追跡するために採用されることが多い。現在当社では、ソーシャルディスタンシングに対して非常に敏感なレジャーやエンターテインメント産業のクライアント向けに、追跡調査を実施している。現状において可能な物理的なプロモーション活動を企画するためには、追跡調査から得られたデータが重要な役割を担う。
言うまでもないことだが、コロナ禍がどの程度続くのか、それによって消費者にどのような変化が現れ、その変化はどの程度続いていくのかは誰にもわからない。マーケティング環境としては非常にハイリスクであり、今日行った決定が後々覆される可能性もある。しかし、今こそブランドがより積極的に市場や主要顧客層との関わり合いを持ち、リスクを取るべき時だと考える。ニューノーマルに消費者が適応しつつあるなか、変化する顧客のニーズや期待、求めていることを理解していくことが、コロナ後の市場環境において成功を収めるうえでの必須条件となる。日本の消費者とブランドの接点や関わり方を強化するために、市場調査が担う役割はこれまで以上に大きなものになっている。

